ゲンロンSF大森講座2024 『物書きとしての自分の武器~』 実作感想

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パンドラの残光

  • よい旅でした。読み始めた時はモノローグが続くなぁと正直感じたのですが、不思議とパンドラの内面がだんだんと伝わってきました。恐らく、状況設定が特殊で、パンドラも特殊な状況にいることから、状況を説明するだけで人物像が伝わるのでしょうか(刑務所の囚人が回想してる感じ)。僕の感性だと、主人公が自分の境遇を語るより、主人公の会話や行動や反応から読者が「こういう人なのかな」と感じるのを理想としていますが、これはこれでアリだな(特に短編では有効かも)と勉強になりました。また物語が一直線に感じるのですが、それも「太陽に飲み込まれる地球に降り立って写真を撮る」という状況がすごいインパクトなので、それほど設定が凄まじかったら一直線でも成り立つんだなと勉強になりました。発想力の勝利を感じます。
  • 作者の頭の中にある世界観や考察を喋るための装置として登場人物が喋っている感があります。その世界観が素敵なので僕には読み応えはありましたが、人によっては説教臭く感じるかもしれません。
  • 地球に近づいて降りるところあたりから、描写や選択や、物理的にそうかな?と感じるところはありました。送れる写真データの制限って本当にそうかなとか、地球ってこうなるかなとか、太陽って漂うかな、昼の長さって変わるのかな、とか。また一人称として違和感を感じるところはありました(『私は人類の栄華とやらを鼻で笑い飛ばしながらその姿を視界に収めた。』等)
  • クライマックスのカタルシスは弱かったです。パンドラが一人で考えて感じて結論に達し、他人への愛と生きる意味を見つけたという結論に感じ、考えや思いが一方的で深みがないよう感じました。愛を書くならイブと一緒に地球を歩くべきに思え、そうでないなら、それ以外のクライマックス(太陽に溶かされる愉悦で物語が終わる)などなら違う感想だったかなぁと思いました。

白紙に刻む冬

  • 自分は梗概を読まずに何も知らない状態から実作を読んでいます。その上で正直に申し上げるのですが、最初に3分ほど読んだあたりでギブアップしました。出だしから不思議な描写が続き、何か人間であるようなそうでないような不思議な状況にあることはわかりました。けれど、短編という前提で読みだして、誰が、どこで、何をしているのかがわからない状態がそれなりに続くと、僕には先に読み進む体力がありませんでした。
  • Noteか何かで、アンビエント音楽のような、幻想系を書かれると拝見した記憶があります。ただあくまで僕の感覚だと、現状、先に進ませるフックが足りていない気がしました。たとえば前回課題の道端さんの『RとF』も、同じく誰がどこで何を考えているのかわからない抽象的な書き出しですが、読み進めてすぐに「……この語り手は地球のようななにかだ!」という驚きがありました。本作も、そういう読者を引き込む驚きが早い時点で仕掛けられていたら違った印象だったかもしれません。

Type-O3

  • シーン2-2まで読みました。とても面白かったです。まず、「格闘技のよく覚えてないが気が付いたら相手が倒れていた~」、の下りや、それを脳神経手術の「神がかっている」と結びつける下りが興味深く、そこで物語に引き込まれました。その後はまったりとした細やかな情景描写が続きますが、文章がうまく読むこと自体の愉悦があり楽しめました(そしてちゃんと生姜焼きが出てきて安心しました)。「勝ちたいですか?」の切り出しは自然でした。その後の会話は大変興味深かったですし、今までに見たことない斬新なSF性を感じます。僕の解釈だと、「無我とは何なのか」、「勘」とは、「第六感」というような領域が、物語に乗って考えさせられる感じがあります。これ単体で読んで面白かったです。
  • 情景描写が細やかで、細かく人物が動いたり考えていく様子がちゃんと伝わるのは、自分はそれを省略しすぎてうまく伝わってない部分が多いので参考になります。長編の1シーンとしての完成度は高いと思います。敢えて言うなら、これは自分も課題ですが、Pacなどのギミックを、説明するのではなく、主人公が見たり何かと話したりすることで伝えることはできそうだなと思いました。

DIVA

  • 美しい物語でした。書き出しがうまい。ライブの描写が凄くうまい。学習官を「データの番人」という比喩がうまい。会話も興味深く考えさせられます。「私は声に心を込めて歌った、だから拍手がもらえた。でさ、私の心とつながってない声は、もうそれって私の声なのかな?」など。少女と3人で会話が始まるところは、一般的に1人称で3人以上の会話は難しいとのことですが、本作のものは自然で参考になりました。歌奈の心情変化は、ちょっとそんなに都合よく人って変わるかな?と感じた部分はありますが、作品全体が透明感あるトーンで統一されており(みな、大人というより少女ぐらいの精神年齢)、またそれまでに作品に対する信頼感が醸成されていたので、「まあいいか。それよりも先を読みたい」と勢いで乗り切れました。クライマックス前の、声を学習する詳細もリアルで、それ自体が興味深く読めました。なんとなく、宮内悠介の『ヨハネスブルグの天使たち』の影響があるのかな?と推測しました。
  • AI彼氏はちょっと都合よすぎるかな、と感じました。
  • ラストは、すみません、僕にはロジックが完全に破綻しているように見え、「。。。」でした。

     ①国際的なソフトロー「インテリジェンス・コモンズ」は都合よすぎる気がします。犯罪人引き渡し条約や租税回避に対するOECDガイドラインのようなものでしょうか。全体を通して学習官の成り立ちや社会的役割を細かく説明していることが、良くも悪くも作品のリアリティラインを上げていますが、そこまで現実に近い世界なら、そのような国際協定が世界規模でワークしないことは明らかかと思います(世界から音楽の違法ダウンロードをなくすことは可能と思いますか?)
     これはつまり結末が、「主人公の『私』が若さの無知ゆえの守れない約束で歌奈を学習させてしまった」というように僕には見えます(当然まわりの大人は、それでデータが取れるならロビー活動や条約修正に「反対」はしません)。
     なお舞台が日本に限定されていれば、データも監視できますし、違法行為に対する法的措置も出来るので、これは解消できるとは思います。その場合、「私」が人生を通じて歌奈の声を守ったというドラマ(私がおばあちゃんになって入院した時に、私が守り続けた歌奈の声をふと聞く、とか)などもあり得るかもしれません。
     またどうしても世界にしたいなら、学習官でなく、メジャー人口声帯メーカーの交渉役みたいな位置づけにしてハードを管理できる立場にある必要があるよう思えます。

     ②例えばロシア語には『ж』という音がありますが、これは日本語発声の学習やAI補助でも再現不可と思われます。現実世界のAIの声のモデリングも、各言語ごとにやられていると思われます。歌奈の声が多言語で響き渡る、は、ソフト技術的にどうなんでしょう。
     またハード面でも、声を形作るのはそもそも声帯というより気道や口腔内の動きと思われます(だから人の声ものまねが出来ます)。ですのである人の声を他人の口から再現させるとなると、そのあたり全部の神経をコントロールする必要が出てくるので、『人工声帯デバイス』というのがさすがに雑すぎると感じ、またポリコレ的にまずいかもです(実際に声をなくした人がこの物語を読むとバカにされてると感じるかも)。

     最初から最後までファンタジーやラノベとして読むならこういう点は気になりませんが、作者さん自身がリアリティラインを限りなく現実に近づける記述を繰り返すので、リアリティラインを担保するロジックの欠如が気になりました。
     ショートショートの時も思ったのですが、ラノベ感の雰囲気とシリアスな詳細を混ぜると、たぶんラノベ的な感覚がベースの読者さんが読む分には違和感を感じないのでしょうが、普段(or全く)ラノベを読まない層からすると、???という感じになるのかもしれません。

スイープ・アウェイ

  • 書き出しがとてもよかったです。いいタイミングのよいフック(「――だから何だというのだろうか」)。ここで熱が上がりました。「だからこそ――意味はないのだろう」もよいフックで作品の期待感があがりました。
  • 個人的に好きな世界観(透明感やニヒリズムです)。しかしすみません、途中で読むのをやめ流し読みしました。

     ①人称と視点が安定してないです。出だしでは、「あの星から自分はやってきた。」と1人称ですが、その後は「コージはそのナノマテリアルテザーで作られたリニアモーター式のレール、およびその姿勢制御装置の保守運用を行う常駐エンジニアだった。」と3人称に変わります。その後も、「セムの手には拳銃が握られていた。つまりはこの場においてコージに拒否権はないということだ。」等でかなり神視点となるのですが、と思ったら内面のモノローグになったりします。多少のズレなら読み進められるのですが、自分にとっては諦めさせるストレス量でした。

     ②出だしが宇宙兄弟で世界観がプラネテスですが、展開やテロのキャラや動機もプラネテスと丸被りは個人的にうーんでした。

     ③人物の反応がちょっと物語に都合よすぎと感じました。主人公がニヒリストなのはわかりますが、同僚を殺して自分を撃った?相手に握手を求められて平然としてるのはリアル感がだいぶないです(それ以前はテロリスト達を常軌を逸した奴らと認識してますし)。そしてその直後に、少し会話をしただけで、相手を「ずれている」と認識できてしまうことなども、リアルさがないような気がします。
  •  好きな世界観なのですが、シリアスでリアルなものとして読む場合、設定や人物の背景や会話のリアル感が難しいように感じました。

フィジカル長女とロジカル長女

  • うーん!!コメントが難しい!!!おもしろいです。とてもおもしろいです。続きが読みたい、でも太字や斜線の使い分けでは僕の頭にはスムーズには入らず断念しました!
  • とにかく日本語がうまくリズムがよく、ユーモアのセンスも好みです。「一生働かなくて済むくらいの過剰極まりない金が。。。人を決して裏切ることのない金が。。。そして私も国家には司法試験を九回落とされた恨みがある。。。難易度はとてつもなく低く体力はMAXに使う。」などが、ユーモアでありつつ、それ自体が人物描写をなしているので上手いなぁと感じました。
  • 弁護士?のアタシのセリフの斜体での切り替えは、ちょい止まりました。悩まれたと思うのですが、ここは下線なのかなぁ。。。
  • 第二罵からは、ちょっと誰が誰について話しているのか理解が追い付きませんでした。じっくり遡ったりしながら読めばわかるのかもしれませんが、それだと、この作品のそもそもの魅力である疾走感がなくなってしまいます。
  • 読みながら村上龍の『昭和歌謡大全集』が頭に浮かびました。本作は、ぜひ戯曲形式で、会話文の前に人の名前が入る形で再執筆してほしい!!!

神さまのいる国

  • とてもよかったです。あまり人と比べるのもよくないけれど、今課題の実作(短編)の中では、内容の深さ、物語性、文章の完成度、最後の一行のカタルシスの4点のすべてで頭ひとつぬけて一番よいと僕は思いました。
  • 単純に文章が安定していて綿密でうまくて先に読ませる力があると感じました。また世界観がとてもうまく描けていると感じました。
  • 意図的なのかわかりませんが、「開示」以前の世界観は、あまり書かれていないけどリアリティラインが担保されていると感じました。ザ・ギバーとか灰羽連盟ぐらいかな。どういう料理を食べているのかなども、世界観のレベルを伝えていてうまい(「神給路」もわかるようでわからないギリギリで良い感じ)。ただ時計は仕組みがわからないと保守できないので出さない方が無難かも(それとも天使が保守してるから関係ないってこと?)

  • 深川さんが既読か知りませんが、『ザ・ギバー』を読んだことある人なら、内容や構造や雰囲気がかなり同じで新規性はどうだろう。。。と感じるかも。
  • 物語にミステリーが含まれ、それがうまく機能しています。途中からいい感じに天使が不気味に感じ始めました。壁が光ったあたりでやばそうだなとわかりました。そうと思ったら(良い意味で)やはりとなり、それにレモンの仕掛けをするのもうまいと思いました。
  • 主人公の知的レベル的に、そこはアルコスに問いただすのではなく、尾行するとか彼を罠にかけるのが自然に思えるのは違和感がありました。ただ文字数の制限かもしれません。
  • ひとつ難しいのは、トリック開示で世界をひっくり返すのもありだけれど、それがこの作品の大きな魅力(神話的な世界観)を壊してしまっているので、読後感としては「驚いたけど、作品の魅力ってなんだったんだろう」と感じるかもです。
  • 「なかった」、は回収され、とっても深みがありました。開示後もアルコスが送り迎えしてくれるのもよかったです。

太陽の内なる目覚め

  • 面白かったです。というか、これを書こうと挑戦する勇気がすごいと感じました(それとも秋吉さんにとっては自然なこと?)
  • かなり芸術よりと感じました。よくわからないような、でもわかるような、で、どちらかというと「わかる気がする」という内容でした。前作も陶芸パートは面白かったのですが、それがもっと前面に出てきた印象です。
  • 太陽系レースは物語に必要ない気がしました。ヘレンが妙に俗物で不快な意味で作品の雰囲気が壊されている感じはあります。太陽の中で蜂蜜をぬってるのは、それはもう精神世界のプラズマなのでOKという謎の納得感はありました。
  • セックス描写は、ちょっとセックスっぽくすぎてあまりよろしくない気が(個人的に)しました。もっと融合感メインの方が変な嫌悪感が生まれづらいよう感じました。あと(細部に書いてるのかもですが)クレアの性別が途中までよくわからなかったです。
  • 特にヘレンは自分にとってはノイズで、例えるなら、ソラリス(映画版)で妻が出てきた後に、博士が「おい、お前、やったか?奥さん?とよ」みたいな会話が出てきて現実に引きづりこまれる感じです。ルールなんて関係なく何でもありな芸術的な世界に入ってきてるので、この作品ならもはやヘレンもいらない感じすらしました。
  • え!地球に戻るの(戻れるの?)とも思いましたが、まあ太陽の中でプラズマ実体化できるならありだろ、という謎の納得感はありました。ラストはよかったです。どう終わるのかな、と感じ始めたところで、よくわからないけど納得感があるラストでした。自分もちょっとこういう作品を一つ書いてみたいと思いました。

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