ゲンロンSF創作講座23 第6回 感想1/2

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嘘つき、詐欺師、デマゴーグetc. が出てくる物語を書いてください | 超・SF作家育成サイト (genron.co.jp)

騙り語り
雨露 山鳥

・面白いです。まず「騙り語り」という造語に言語センスを感じます。

・文体だけでも面白いです。こういう昔話風の語り口は、下手な人が書くと、(僕は)読むのがダルくなるのですが、終始リズムよく、すらすらと読めました。この語り口とリズムにそって頭で音読するだけで、一種の非日常体験となり、ある主の愉悦があります。

・一つ一つの会話がリアルで面白いです。序盤で喜平が「客を誰も楽しませられないただのウソをこいたのさ」と返すのは、自分の土台に引きづり混むMCラップバトルみたいに感じました。

・中盤で、「これは、人間の想像力(ホラ)が発明の源泉だと考えると、なかなか深いテーマだな」と感じました。ただ勝手にそういう期待をして何ですが、そういう方向には進まなかったのが、個人的に残念でした。

・読後感は、「文体やリズムや表現や、テーマを掘り出す能力や、全部ハイレベルですごいなぁ」と感じる一方、心には刺さらなかったかも。前作の声優の話では、読後にクライマックスの橋の上?のシーンの余韻に浸ったのですが、今作はそういう、作品が集約されたような特定のシーンを(僕は)感じなかったのが、個人的に残念でした。

デッドマンライター
池田 隆

・かなり面白い!SFの本質に触れる作品だと思います。僕にとっての一つのお手本と感じましたし、ファンになりました。

・設定やギミックの現実度が高いので、作品のリアリティラインも厳しめになるかと思います。なので最初は、「故人の仮想人格というサービスを、実際に人が使うか」の前提が呑み込めず違和感がありました。しかし仕事のシーンやユーザーポリシーなど、日常も細部もうまく書かれているからか、途中から気にならずにぐっとストーリーに入り込めました。

・テッド・チャンを思わせるというか、SF設定が生み出す特殊な問題や感情が、シーンとドラマを通じてリアルに描かれていると感じ、小手先のドラマテクニックではない、SFならではの面白さを感じることが出来ました。正直、作品によっては、面白いけれど、「これはこのSFギミックを取っ払ってもドラマが成り立つな(それならSFギミックを使わずに単にリアルに書いたほうがもっと面白い)」と感じることもあるのですが、この作品が描く感情は、このギミックでなければ生まれない、人間にとってリアルかつ未知のものです。すごい!!!

・実装されたら、何が起こるか?の詳細がかなり具体的に考えられていて、知的好奇心が刺激されました。ユーザーとどういうコンセンサスでやっていくかのルールとか、仮想人格を演じる側の心情と葛藤とか、自分の方が故人を理解してると感じはじめちゃうとか。こういう面白さもSFの本質だと感じます。

・また「最果てラジオ」でも言われてましたが、ハッピーエンドを書くのは難しいところ、違和感を感じさせない着地だと感じました。

・他方、情報過多で読みづらいとも感じました。里奈と正樹の話の続きを早く読みたいのに、オールドメディアの扱いとか、アーティストのタッチの展覧会とか、次々に新しい小ネタが入り、それを理解するのに頭を使うので、リズムが崩れたり疲れたりしました。またオルフェウスも、「えーと、前回の8月18日の描写では、どんな話だったっけ?」とリズムを崩されてしまいました。オルフェウスもあり登場人物が多く、この字数とワンシーンの短さの制約の下で、この人数の動きを追っていくのは辛かったです。物語の本筋だけでも(良い意味で)重くて情報量が多いので、ミカエルをなくして、最後だけにちょっとオルフェウスを入れるぐらいにしても、この作品の面白さは損なわれないと思います。

フィクションの目撃証言
鹿苑牡丹/ろくおんぼたん

・独特の世界観を感じます。読みながら、現代社会に起きている何か本質的にやばいことが、程よい距離感で風刺されているような感覚を得ました。作品を通して、妙にバグっていて、でも何だか説得力のある世界観を感じました。YoutubeとかTiktokとかで作られる世界観とか、遊び方とか、知識形態(News解説系の動画等)とか、日常の過ごし方が、現実を浸食していって、それが当たり前になって現実がバグるみたいな。

・ただ、ごめんなさい、僕にとっては文章が読みづらくて、違和感が続き、何が起きているのか追いきる気力が尽きてしまいました。描写のカメラに3人称と1人称が混ざっているかもしれません。「」がセリフなのか心の声なのかわかりづらい箇所があったり、また全体を通して、語りに過去回想と現在進行形が混ざっているかもしれません。(例えば次の箇所では、前半は過去回想口調で『その術中、父は死んだ』と終わったら、その後に、視点が現在進行形となり、いま死んだとわかったような語りになってるように思えます)

『数十分後、警察と救急車が到着した。愛奈に警察との実況見分は任せ、自分は父に連れ添って救急車に乗る。

鎌倉病院へと到着するや否や、父はCTを撮影されると、脳挫傷という医師の判断が下り、血を抜くための緊急手術が行われることになった。

その術中、父は死んだ。

 顔の崩れた父の元に連れられ、医師から父の死亡を告げられる。看護師に病院窓口へとたらい回しにされ、特に葬儀社を決めていないのであれば病院提携のものでよろしいか、という説明を受ける。全く頭に入ってこないまま、遠くに住んでいるため、直ぐには駆けつけられない母に電話して指示を仰ぐ。

父は死んだと言うが、慌ただしく物事が推移していき、実感が伴わない。あの無敵のスターが本当に死んだというのか?』

嘘発電の成金おとこめ!
木江 巽

・書き出しがとてもうまい。「なるほどこういう世界観ね、はい!」とすんなり受け入れちゃう気になるし、なんかワクワクするし、つっこみどころがありすぎて物語の結末を知りたくなるし、それでいてギミックの説明もちゃんと果たしている。

・ユーモアのセンスに爆笑です。『嘘発電というのは、近年注目を集めているクリーンエネルギーだ』のパワーがすごい笑。

・翻訳されるのに適した世界観な気がします。ユーモアのセンスとか、書きたいメッセージの切り口が、村上春樹とか、よしもとばなな風というか、何か人類全体が「うんうん」と感じるUniversalityがある気がします。

・この作品で何を書きたかったのか、が、こちらに伝わった気がします(『優しい嘘を含めた、曖昧せいの意味』でしょうか。人間ちょっと曖昧なぐらいが心地よいよーみたいな)。それを描くのに、ユーモラスな嘘発電のギミックが最適だし、またそのメッセージが、現代社会へのアンチテーゼとも捉えられるので、文学性が生まれていると思います。

・ただ、そのドラマを描くための設定に人の死が絡むのに違和感を感じました。書き出しからユーモアで笑わせてくれていて、そういう安心感の上に読み進めていったら、話が急に重くなって、あれれ?と付いていきづらくなりました。

・メッセージが、終盤で、主にセリフで伝えられた感じがしました。セリフで伝えられると、説教みたいに感じてしまうかも。曖昧せいを受け入れた結果、お姉さんや二人の関係がどう変わったか、を見せてくれればよかったのかもと感じました。例えば、「今回の件で二人は一度距離を置く。けれども一年後にお姉さんから手紙が届く。お姉さんに会いにいくと彼女は少し前向きになっている。その帰りに二人で弟のお墓参りに行って、百花が嘘に対する考え方を少し変える」とか。

あの日、出会った子
朱谷

・面白いです!全体を通して、きれいな情景や、謎が解き明かされていく感覚を楽しめました。大きなドラマはありませんが(そしてそれが良い)、静かに、時に心をきゅっとされつつ、たんたんと謎ときが進み、カタルシスに達して、完成度が高いと感じます。

・父の横に自分の名前を書くシーンがカタルシスで、それに向けて物語が最初から過不足なく美しく積み上げられたと感じます。そのシーンがとても印象に残っているし、読んでよかったと感じます。

・書き出しがうまいです。僕は、梗概は未読、何ならお題もなんだったっけ?で読んでいるのですが、最初のうさぎとマグマの話を読んだ時点で、「なんだか、嘘のような本当のような、怪しい話だな、、、」と、自然とセンスオブワンダーが湧きました。 …  と感じて読み進めていくと、フミオの話は嘘もあるとわかる。なので読後に最初に戻り、この話は本当なのだろうか、と余韻に浸ったりしました。

・出だしでぱっと3人出てきて、そこにさらっと3人の行動も含まれてるから、登場人物がすっと頭に入ってきます。短編だとこれぐらいが最適な気がして、とても参考になります。またフミオの手の黒い粒の描写とかも綺麗だし、読み始めて数段落で「ああ、この人は実力がある作家さんで、安心して時間を費やせる」と信頼感が出来るので、そういうプレゼンテーションもうまいと感じます。

・ヨリは、サヤやトーイには、微妙に違う姿に見えているはず。だからヨリは登場時から性別がわかりにくい感じで書かれているのかな?ただ自分は前半で、ヨリの性別が「女の子っぽいけど、どうなんだろ」と気になってリズムが崩れてしまったかも。ヨリの性別はふわっと確定されていて、でもサヤとかの言動では、なんとなく別に見えてるっぽいぞ、ぐらいに明確に匂わす仕掛けが差し込まれていたら、謎解き要素が一層おもしろくなったかもと感じました(単に僕が見落としていたらスミマセン)。

・『凍てつく氷に覆われた星で、、、』の語り口が、フミオが小学生と考えると、ちょっと大人すぎないかな、とリアリティが傷つきました。あとワームホールで惑星開拓してる時代に、高層マンション、アパート、パックのアップルティーとかは少し違和感でリアリティが傷ついたかも。

エッフェル塔を二度売った男
みよしじゅんいち

・小さなジョークにセンスがあると感じました。『油を売るのに忙しい』とか、「あの人をダシに儲けようったって、そうはいかないよ」(←お前がいうか!笑)とか。全体的に会話のテンポがよく、面白い会話がいい感じに挟まれていて、飽きずにスラスラ読めました。

・僕の理解力の足りなさな気もしますが、読みどころがわかりませんでした。タイムマシンの仕組みは「観測できないあやふやな存在だから時空をだませる」ということで、そこは「まあタイムマシンだし、ふわっとしてるもんだろ」で、読み進めることは出来たのですが、、、そもそもの、物語の動機がすっと理解できず、もやもやします。

・そもそもビリーにタイムマシンのことを話したのは、ビリーがタイムマシンの存在を、知っているけど確信はない、という状態にするため?(そういう存在がいればこの時代に戻れるキーとなる)。そしてこの一芝居を打ったのは、ビリーに今一度写真をちらつかせて、ビリーがタイムマシンの秘密を守るか確認して、またしばらくはこの時代に戻ってこれるキーとして働いてくれるかを確認するため?

・えーと、①1930年代にタイムマシンができる→②2022年に行って長いエッフェル塔の写真を撮る→③1930年代に戻って写真をビリーに渡す(その理由はビリーをキーとするため)→④1950年代の今、カポネと未来に行く前に、ビリーが戻ってくるためのキーとして機能してくれるか確かめている、という流れなら、②から③に戻るためのキーとなる箱の中の猫はどこに存在する?

・なんか腑に落ちなくてもやもやするけど、詐欺師の十戒とかよく出来ていて(これは創作?)、ジョークも面白い。なので全体を通して、そういう小ネタを楽しめました。

四の五の言うには
藤 琉

・めちゃくちゃ面白いです!!途中から最後までずっとにやにやしながら読みました。物語自体も面白いし、構成も終始おもしろく読めたし、最後の最後までうまく畳めているし、何より、未来の話が荒唐無稽すぎて、よくこんな突拍子もない変なイメージが頭に浮かぶなぁ(笑)と脱帽です!

・二行しか出てこないものの、母ちゃんの存在感がやばいです!あいつらのぬめぬめとか、顔を考えると、なんか妙にリアル(笑)。

・荘厳な情景と内容で前半が進み、いきなりとんでもなくアホな話になったと思ったら、そのアホ共が綺麗な景色に囲まれていくことに、不思議なギャップがありとても印象的でした。

・(人の話をするのも良くないかもしれませんが、、、)、他の方の作品で、ユーモラスな感じで始まって、そういう安心感で読み進めてたら、唐突に話が重くなって、置き去りにされたと感じたというのがあったのですが、、、本作みたいに、重そうな感じで始まったものが唐突にバカっぽくなるのは、むしろ面白いんだなと発見がありました(単に筆がうまいだけかもしれませんが)。

・すごい満足のいく読後感で、他に感想が出てきません。普通に買いたいです。ありがとうございました!

ターミナルホープ
瀬古悠太

・シーンを視覚的に表してリズムよく進めるのがうまいと感じます。カメラが風景を映して、スライドすると人物がいて、動きが始まり、会話が始まる。こういう流れが一定の型と成立されている印象で、読んでいて終始頭が疲れないと感じます。たぶん、小説がそのまま脚本としても使えるんじゃないでしょうか。

・(人の話をするのも良くないかもしれませんが、、、)、シーンの視覚的な作り方だと、受講生の中野伶理さんの作品は、別な感じですごいなぁと感じます。なんでかと考えた結果、恐らく、中野さんのシーンには、色とか匂いとか温度があったり、シーンの色彩がvividだったり、カメラの距離やピントも幅が広いのかも。瀬古さんの描写は、テレビドラマのような、ちょっと引いたカメラから見えるものが多いかもしれません。

・いろいろなものがハイレベルだと感じるのですが、ごめんなさい、なぜか全く感情移入が起きませんでした。その理由を考えてみました。以下、雑考でお目汚しの危惧ありですが、、、

・特攻隊だとか、超ハイテクマシンを操る医師とかだと、今の我々から見るとだいぶ非現実なキャラクター達なので、そもそもそこに求めるリアリティラインも高くなく、ある意味受け入れやすい/感情移入しやすいのかも。

・それが今作のように、かなり現実に近い設定で、ドラマで見るような一般的な背景のキャラだと、読者のリアリティラインは厳しくなる。そして感情移入が引き起こされるには、より多面的な情報が必要となる。例えば、私達が現実の世界で人と仲良くなる時って、その人の意外な一面が知れた時とかだし、裁判とかで生じる同情も、事件前後の情報ではなく、被告/原告の日常生活とか幼少期の情報に引き起こされたりするじゃないですか。

・なので多分本作では、ここまで現実に近い医師や少女なら、多面的に描かれる必要があるけど、字数制限が厳しいのかも。本作は90分映画ぐらいの内容だと思うのですが、、、で映画になったとすると、医者については、彼がターミナルホープになった背景とか、恩師とか、今の恋人とのトラブルとか、同期のライバルとの信念の差が描かれ、また少女には、直前までの学校生活とか、付き合ってたけど別れた彼氏とか、出てきそうじゃないですか。

・そんな感じで、設定やキャラが現実/一般的に近づくほど、キャラを多面的に描かないと、感情移入を引き起こせないのかも、などと考えました。

彼女
やらずの

・いや、すげぇ、、、、、僕はめっちゃ好きですね。息をのんで一気読みしました。重いけど、構成も文体も読みやすかった!あと、美しい!

・作者が登場人物にめちゃくちゃ入り込んでいるから出てくるであろう、ふとした瞬間の心の声がリアルできゅっとします。これこそ一人称の醍醐味というか。個人的に下の3節がぐっときました。

『なんて浅ましいのだろう。

今日の肉はいつもより、ほんの少しだけしょっぱい気がした。』

『自分でもどうしてこんな失敗することが分かっている綱渡りを始めてしまったのか不思議だった。』

『一度転んだ私がそのまましばらく座り込んでいたのは、律が私を追いかけてくるかもしれないと心のどこかで思っていたからだ。』

・正直、「東京グールと、マキマさんだ!」と思う節はあるけど、、、じゃあそういう世界観やキャラやストーリーを、活字で表すことが出来るかと言ったら、それはとても難しいわけで。この才能に対する需要は確実にどこかにあると思います。

・主人公の性別が、『崩れた化粧で電車に乗る』の描写までわからなかったので、そこまでちょっともやもやでした。あと、「だってほら、考えてみて。殺しても、私が食べればいいんだよ。」が面白かったのですが、その後にコウ君を溶かしたので、前のセリフの納得感が消えてしまったかも(溶かすなら誰でも出来るので、、、)。ミキサーで砕いて一気飲みぐらいが個人的には納得いく気がしました。

・僕はこの作品がかなーーーり好きなのですが、同時に、ゲンロン講座や公募新人賞だと評価されづらいだろうなぁとも感じます。自分ごときが偉そうに言うのも恥ですが、僕も学ばせてもらった部分があり、役に立つかもしれないので書いてみます。

一つには、課題に答えていないかもしれません。課題ページには、『設定としての「嘘」そのものより、嘘やデマを発する人/物たち(あるいはそれに騙される者ら)が演じるドラマに力点を置くということです。』と書かれていますが、本作では繰り広げられるドラマに嘘が絡んでおらず、警告された線を踏んでしまったように見えます。もちろん面白ければ何でもいいと評価されるゲスト講師もいらっしゃるように見えますが、ゲンロンSFはおそらく、まずはお題に対するSFアンソロジーに掲載できるような人材発掘を目的としているので、最終選考に絡むような講師陣はそういうところもシビアな印象です。

二つには、これは難しい問題な気がしますが、やらずのさんの感性が真面目すぎて、世で求められる水準と乖離しているかもしれません。端的に言えば文章やストーリーが一辺倒に重すぎるかもです。僕は大好きですよ。ただ僕は異常に真面目なところがあり生きづらさも感じちゃたりのレベルなので、そういう少数派の人間にとっては、やらずのさんぐらいの重さは激しくファンになります。ただそれが、大衆に提供するための新人賞に選ばれるかというと、僕には想像しにくいです。

僕の考えだと、世間に認められる作家さんは、その異常性を他の要素と混ぜてチラ見せぐらいにしている気がします。グロテスク性なら:

『グロテスクだけど成長冒険譚である=コインロッカーベイビーズ、限りなく透明に~、等』

『グロテスクだけど軽快で、実はスケールもでかい謎解き話=ブラックライダー、東山彰良』

『グロいけどぶっとび過ぎててもはや喜劇だし何か深い=チェンソーマン』

『グロテスクだけど、詩的な美しさと中二病を突き詰めていく=エドガーアランポー、東京グール』

そういう、別の要素と混ぜて重さはちら見せぐらいが、大衆から認められる文学なんだろうなぁと僕は考えたりしてます。

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