ゲンロンSF創作講座23 第4回 感想

作品一覧URL
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(作者の依頼により一部削除しました)

ファブリック・ダンス
みよしじゅんいち

・文句なしに良いと思いました。これまでの、みよしさんの作品ではドラマは追い求めてないのかなと思う部分もあったけれど、それも高いレベルで実現されてると感じました。

・ギミックが、よくこんな全く新しいものを考えつくな、と感嘆です。それだけでもかなりすごいのに、小説としてもしっかりしている。

・描写は少ないものの、七海の人格がリアルに感じます。また思わせぶりな描写もあります。七海の「残念でした。じゃあ、またね」は、そういう関係は望んでないとか、帰国するつもりがないけど言葉にしたくないとか、別の夢を追いかけてるから拓也に期待させたくないないとか、色々と想像を掻き立てられました。この七海の像が魅力的だし、またそれを、余韻で想像させるのは上手いしぐっと来ました。

・この技術が、いろいろな問題があってスポーツへの運用に落ち着いたというのもリアルに感じるし、ダンスというチョイスもそれ以外ないぐらい良いチョイスと思いました。

・ドライでちょい切ない感じが、宮内悠介さん風かもと感じた。ヨハネスブルグの天使たち、あたり。みよしさんver.の「盤上の夜」を読んでみたい、、、

・無理やり何かを挙げるなら、16000字で完璧に過不足なく美しくまとまっているので、4万字ぐらいのものを書くなら、登場人物の数やストーリーラインで、根本的に別の初期設定を取る必要があるんだろうなぁ、と勉強になりました。

第1回ムーンダーツW杯、もしくは人類の叡智の祭典
渡邉 清文

・月面着陸をダーツで遊ぶ発想が、現実味がありつつロマンあふれるアイデアですごいと思いました。ゲームの描写もわかりやすくリアルで、文章が読みやすく、全体を通じて何が起きているかすっと頭に入りました。

・ただ個人的に、ダーツに意識が芽生えたのはだいぶ唐突に感じ、最後は置き去りにされてしまいました。前半から中盤の技術描写は、月表面の解析や着陸方法の選定など、人間が考えて分析するものだったように思え、AI自我の前振りはなかったような気がします。また最後に月面のダーツからメッセージがありますが、ダーツの動力がどうなってるのか、ひっかかったところで読了となってしまいました。

・また物語全体で、(僕の中では)キャラクターが生きた人物と感じるまで理解できませんでした。冒頭の「ロングスカートの僕」はインパクトがあり「お!」としたけど、未回収に感じます。また母親像もよくわからず、バトル要素あるけどバトル相手の動機や魅力が不明かも。自分探しだけど葛藤のレベルが凡庸かも。

・妄想になっちゃいますが、月面で無人動物研究所とその管理AIが可動してるとかで、その管理AIが、動物の観察を通して自我が芽生えて、人間を無視してダーツに介入はじめるとか?その管理AIとの対話で、主人公の葛藤が掘り下げられ昇華されるとか?どこかにいる母が管理AIの開発をしてることは知ってるが、月面AIとの対話を通して母を理解するとか?

・これぐらいリアリティのある技術や舞台設定を作れれば、スラスラと頭に入ってくるし、技術とゲームの進行を書くだけでも、こんなにワクワクさせられるんだなぁと勉強になりました。

実体のない執刀
瀬古悠太

・瀬古さんの膨大な読書量の産物か、文章のリズムが秀逸で、読者の頭の理解速度との対話が上手い気がします。文章に「、」が余りないのに、すらすらと内容が頭に入ってくるし、音読のリズムもよい。このリーダビリティはかなりすごいと思います。

・登場人物の配分も上手いし(一瞬しか出てない澄香さんも、最後にやはり必要だし、存在感がある)、細かい描写がリアリティを更に高めているし(深くお辞儀して髪がリノニウムに垂れるとか)、話全体がまとまってて満足度たかい(最後とか、噂を聞きつけて幽霊がたくさん集まってきてるんだろうなとかほっこりした)。

・ただ幽霊への心臓手術というのが、とても具体的だから、嘘を飲み込むハードルが高いように僕は感じました。理屈をしっかり詰めようとされており、確かに幽霊が磁気なら磁気センサーで手術できるなとか、長解像度の磁気センサーで触診すれば確かに心臓のノイズを見分けられるかもとか、頭で考えるといちおう納得するのですが、そこをワンテンポおかないと納得できないとすると、無理がある設定なのかも。

・また「幽霊の心臓を縫合する糸はどうなってるの?」とか、具体的な故に、詰められない技術設定が生まれてしまうのかも(人間をエンジンにした飛行機の時もそう感じました)。

・また、たぶんsaverの技術的描写を具体的に書くために、あえて具体的な手術なのだと思いますが、そのsaverの技術描写が、結局は磁気センサーで触診する、に限られるので、そこまでのロマンを僕は感じませんでした。ロボットアームからロマンやセンスオブワンダーを引き出すのに、病院で手術というのが、現実的すぎて、舞台の力が足りないのかも。

・妄想になっちゃいますが、どうせ幽霊などのメタ要素を使うなら、「saverでの手術をしてる時に、人間の体内に磁気センサーで知覚できる何かの形があることに気づき、それが魂の形なんじゃないか」とか「その形にその人の(アトラス的な)ペルソナが宿ってる」、ぐらいの方が、ロマンが出やすい気がします。

・「saverが持つAIが学習し~」の下りは唐突に感じました。

・ここまでリーダビリティが高い文章を書くには、相当な推敲が必要に感じるのですが、、、ナチュラルにされてるとすると、才能ですね。他方、題材を具体的にしすぎると、自分の首を締めることもあるのかも、、、と勉強になりました。

碧光の仔象
藤 琉

・数々の幻想的な光景が綺麗で、高いレベルのオリジナリティがあるなと感じました。光をつかみ、軽く握って伸ばすと鞭、とか、綺麗だなぁ。

・僕の読解力の問題と思いますが、何が起こっているのか追いきれませんでした。すごくしっかり読めば追えるのかもだけど、僕レベルだとさっと読むだけだとわからない。フォトンペットの説明までだいぶ距離がある。

・オリジナルで綺麗な世界観をお持ちに感じるので、無理に現実と接触させなくてもよいのかも、と感じました。エンデの『果てしない物語』とか、カルロ・コッローディの『ピノッキオの冒険』ぐらいのリアリティレベルなら、細かいことは気にせず、ただただ美しい光景と断片的な感情を楽しめる気がしました。理屈とか現実レベルの説明を気にしながら読むと、せっかくの綺麗な世界観に没頭できないかも。(これは本当に、僕の読解力の問題かと思いますが、、、)。ギミックの詳細も、バラードの『結晶世界』ぐらいのふわっとした説明でよいかもで、それよりも、ただただ詩的な世界に安心して気持ちよく浸らせてもらえると、この世界観の魅力がより際立つ気がします。

声優たちの話
雨露 山鳥

・めっちゃいいと思います。完成度高い。「10年後の未来」みたいなアンソロジーあれば載るレベルじゃないでしょうか。

・雨露さんは現実への観察眼が鋭くて、文学に社会的な課題を持ち込める人なんだろうなぁと思います。めちゃめちゃ地頭よいんだろうなぁ。(良い意味で)SFのど真ん中ではなく、自分の世界観の考察を走らすツールとしてSFギミックがあるのでしょうか。小川哲さんっぽい。僕もそれを目指したいです。

・今のちょっと先の世界を具体的に作った上で、その中で暮らす人間の感情を描かれていて、読み応えもありつつ、考えさせられる作品でした。技術の進歩で人間の代替や外注化が進んでも、それによって人間の生き方とか、夢とか、情熱が失われちゃダメ、みたいなことが頭に浮かびました。またそれを、説明でなく、ちゃんとした登場人物のドラマを通して伝えるのが、ストーリーテリングのお手本みたいに上手いと感じました。

・無理やり何かを言うとすると、終盤で真霧が瑠華に対して、自分の感情をぶちまけますが、真霧の感情に対して、答えを出す必要はないのかもと思いました。雨露さんの中では、全てのキャラクターの内面や葛藤が出来上がっているから、それを書いてしまうのかもだけど、現実の人間の大半は、そこまで自分を内観したり言語化できたりしないと思うんです。そこにちょっと違和感を感じた。瑠華に対して、「ふざけるな!よくわからないけど私はあんたに嫉妬してる。そんなあんたが泣いて逃げ出してたら、私はどうすりゃいいんだよ!」で、二人でよくわからんが泣きあうぐらいが、リアルな気がします。

・同じ感じで、「プロだから」という理由で最後いろいろ変わるのが、ちょっと唐突なのと、そこから特に生まれるロマンがないかも。「プロだから、許可する」と変化の理由に答えを出さなくてもいいのでは。『私の生き方は声優で、声優はばんばんオーディションしてアフレコでグルーブを感じる生き方。自分の声がAIRVoCで使われようと使われないと、私の生き方や私が感じるグルーブには関係ないのだから、拒む必要もない』みたいなものを、行動を通してさらっと書くぐらいの方が、読者に想像の余地も残るし、テクノロジーに対する人の向き合い方として、かっこよくてロマンがあるのかもと思いました。

・ ChatGTPとか固有名刺を使うと、30年後にリーダビリティが低くなる気がする。あと、バ先とサ終の言葉遣いは、音読した時に美しくないので、ちょっと違う気がする。

・既知かもですが、既に問題になっています。

アングル:「声」は誰のものか、AIクローンに抵抗する声優たち | Reuters

https://jp.reuters.com/article/ai-artists-legislation-idJPKBN31P0LF

・とにかくすらすら、楽しく読め、かつ深く、考えさせられました。ありがとうございます。

酔宙夢譚
朱谷

・朱谷さんは僕の推しの一人です。透明感のある世界観で、次々と綺麗な情景を作り出し、また文体も、やや古風であるようでも読みやすい。安心して読めます。

・文章は読みやすく、情景も浮かび、心情も伝わり、描写もリアルで、全ての要素が高いレベルでまとまっているのですが、読みどころがちょっとわかりませんでした。登場人物は1人でもよいだろうし、無理にドラマや葛藤を引っ張り出してこなくてもよいとは思うのですが、作品全体を通して、自分の心に起伏を感じなかったのが正直な感想です。

・神話的な幻想の旅をした後に、元居た場所に戻る構造かと思いますが、やはり元居た場所に戻るなら、プラスであれマイナスであれ、主人公の変化は必須なのかもと感じました。妄想ですが、例えば、森で美しすぎる光に視力を奪われ、帰りの便でちびちび飲みつつ森を思い出して5年内観し、何か悟りかけて地球に帰り着くと、なんと泣きっ面に蜂で財産が消えている。それでバーにやけ酒を飲みに行くけど、ピリウリの醸造所から地球産の酒の利き酒やってくれとか言伝が届いてて、やれやれとんぼ返りでまた5年かけて、俺から全てを奪った酒を呑みに行くのかよ、こうなったらトコトンやってやる、と新たな生きる力が湧いて、ぐいっと呑んで終わる、とか。

・無と有の観念の旅の描写が中盤に来たのが、個人的に入り込めませんでした。まだそこまで物語に入り込んでない時に、観念的な長文が来たので、ちょっとダルさを感じてしまいました(ごめんなさい!)。個人的な意見ですが、こういうのは、ギミックに相当な説得感があって、中編小説~のクライマックスぐらいじゃないと、入り込めない気がします。例えば最近だと、山田宗樹の『代体』の終盤で、なかなか長い観念の旅が入ってきますが、それぐらい前提として、色々な積み上げと尺が必要なのかも。

・僕個人の好みかもですが、朱谷さんの作品は、醜いものが出てこないんが、作品の深みに限界を作っている印象です。「月の時計」も、主人公が少女を殺した設定でしたが、戦争では銃を持った民間人を殺すのは不可抗力とも取れる範囲なので、後悔の質が浅く感じました。どうしようもなく飢えていたから少女を強盗して、その流れで殺してしまった、ぐらいが適切に自分は思えました。

・全体を通して、アルコールに飲まれてる行動描写がものすごくリアルでした。太宰じゃないですが、ベースに透明感があり抑揚が効いている朱谷さんの文体が、ダメな人間のダメさとか、ふと心に浮かんでしまう醜悪な欲望を書くと、退廃的な美しいものが生まれる予感が。

・例えば漫画の『蟲師』なんかは、透明感あり淡々と進むものの、起きてることの性質はかなりグロテスクだったりします。なにかそういう、美しさと醜さがギリギリ共存する深みを、朱谷さんなら書ける気がします(勝手な期待(`・ω・´))。

インターネットに注いだ毒と彼の贖罪の機会
谷江 リク

・おもしろいです!色々なものが粗削りなのかもしれませんが、作品の核となる部分が面白いです。

・小さなところから始まり、日本のインターネットが止まるまでの論理展開が、ほどよいリアリティだったので納得でき、最後にはっと息を飲みました。細かいところを考えると、主人公はどういう役職なんだとか、全部が帝都通信のCDN使ってる訳じゃないだろとか、それほどの規模なのにセキュリティがザルだなとか、CDNってのが止まったら別のサーバーに繋がるだけでは?、とかキリがありませんが、なにしろ前に進ませる文圧はあって、骨の論理の部分は違和感ないので、つっかえることなく最後まで読めました。

・文体とかリズムとかリアリティのレベルが、(良い意味で)日刊SPAとか大衆系のノリだなと感じました。このノリでSF大賞とか文学賞とかは僕には想像しにくいのですが、間違いなく面白いですし、需要はあると思います。漫画化もしやすいノリだと思います。(逆に、文体とかリズムが、大衆系ではなく文学よりになってしまうと、細かい違和感を感じやすくなって粗が目立つかも。)

・小説を書こうとすると、「主人公の成長/葛藤が、、、」とか「上げて下げて上げてドラマを作る、、、」とか、王道的なモノに向かいがちなところ、この作品はそういうのは全然ないかもしれないけど、面白いです。エンタメの良い例だと参考になるし、これが個性なんだなと感じます。

・他方、ガジェットで物語を走らせて文学賞とかを狙うなら、そもそものガジェットをかなり作りこむのが必要なんだろうなぁとか感じました。藤井太洋さんのGene Mapper full buildじゃないですが。ただそれ、46000字でも収まるのかなぁ。。。

・リクさんがどこを目指されてるのか知りませんが、自分はファンになりました。次も期待してます!

感染
やらずの

・やらずのさんは、個人的に一番推している方です。問題意識とか書きたい内容が高次で、日本的でない国際的なスタンダード。社会とか人間の深淵を書いて、歴史に残ってやる!みたいな意気込みを感じます。SFというより、芥川賞っぽいですよね。

・物語も、展開や結末が読めず、考えさせられ、これぞ文学という感じがします。

・一行一行の表現や比喩を作りこもうとされたり、削るところは最大限に削ろうとしてるんだろうな、と感じます。また、芸術性の高い表現や言い回しを模索されてるんだろうと、推敲の執念を感じます。ただ正直なところ、その結果、細かいところが分かりにくかったり、表現が適切なのか気になってしまい、すらすら読めない感じがあります(ごめんなさい!)。

・例えば導入から車に乗り込んだ後の会話では、削りすぎて、どちらがどの性別でどっちが主人公なのかぱっとわからず、読み直したりして、少し躓きました。

・また僕は頭で音読再生して読むのですが、拘った文章にされているのはわかるのですが、リズムが悪いと感じる箇所が多くあり、そこでも立ち止まってしまい、すらすら読めませんでした。例えば、「そのからだのなかに流れる半分の血と無関係ではない」は声に出すとだるく、「この体に流れる血の半分と無関係でない」の方がすっと頭に入るな、とか。「何度か訪れたことのある店内は薄っすらと埃が積もってしまったように色褪せて見えた」は、「埃が積もったように色褪せて見えた」でいいな、とか「路駐した車のなかで食べることにした」は「路駐した車で食べることにした」でいいな、とか。

・また漢字の使い方のこだわりが、作品の魅力を上げることに繋がっていないと感じました(ごめんなさい!)。「加熱式タバコを喫おうと」は「吸う」で良い気がする。「コーラをごくごくと呷る」「私は悴みつつある指を動かして」「あくびと同じくらいの軽率さで溢すことがある」などの漢字は、マイナスはあってもプラスはないように感じました。

・他には、「義憤と困惑の狭間」という表現がありますが、、、一般的に「狭間」という表現は、「悲しみと怒りの狭間」とか「生死の狭間」とか、表裏一体で近い二つの概念で、右なのか左なのか判断できない状況に対して使う気がします。義憤と困惑は、比較的距離がある二つの概念だと思いますので、そこの狭間って何?とか気になってしまいます。文脈からは、義憤と困惑を同時に感じているように見えるので、「義憤と困惑に襲われつつ聞いていた」で良いんじゃないでしょうか。

・また、「閉め切ったはずの部屋に入り込んでいる夜に黒い肌は紛れてしまっていて」という表現がありますが、「はず」って何だ?閉まってるのか閉まってないのかわからないってどんな状況?「締め切った部屋にも入り込む夜に」って意味かな、とか。あと、美しい意味で「肌の黒さと夜が溶け合う」ぐらいの表現ならギリギリOKかもだけど、紛れるという言葉や、ましては、その表現が意味するところがマイナスの感情と結びつくのは、NGだと思います。

・また根本的な問題ですが、(やらずのさんが黒人ハーフでない前提ですが)、現実世界に具体的に存在する特定の立場の存在が、既に現実のものとして具体的に感じている負の感情を、その当事者でない作家が、一人称として描くのは、NGとして商業化はまずないと思います。それを書きたいなら、主人公の一人称の私が記者で、私から見た他人のハーフに言葉を語らせ、そしてそれに憤りを感じる私の感情を描く、ぐらいが限界な気がします。

・表現の解像度を上げるなら、ものすごく高いレベルで完成させないと、粗が目立っちゃうのでしょうか。いろいろ書いてしまいましたが、やらずのさんは他の方とは違うレベルに挑戦されているのが伝わり、個人的に一番おもしろいと感じている作家さんです。次回も楽しみにしてます!

「車はやっぱり空を飛ぶことにした」
木江 巽

・めっちゃいいじゃないですか!めちゃくちゃな設定だけど、妙にリアリティがあって、感情がしっかりと伝わります。会話の掛け合いがうまい。とにかく楽しいし、グルーブが生まれてるし、納得感あるし、ほっこりする。

・SF創作講座では選ばれないかもしれないけど、何だか子供に読ませたくなる物語です。文章も読みやすく、文章リズムの変化とか、物語全体の展開の起伏とかも心地よいです。

・そして、4000字だから、最高に面白いってタイミングで、余韻を残して気持ちよく終わるのも上手いです。これ以上だとダレちゃいますよね。

・完成度がとても高い作品に感じるので、ただ「よかった!」以上の感想が出てこないのですが、、、次回もすごく楽しみにしてます!

キノコ狩りにはうってつけの日
中野 伶理

・情景描写がとても上手い方なのだと感じます。開始10秒で、心は森の中でした。

・会話と描写と行動を過不足なく繰り出すテンポが秀逸なのか、シーンがかなりのスピードで次から次へと展開していきます。それでも、何が起こっているのか、キャラは何を考えているかがしっかり伝わるので、総合的な文章力や配分がとてもハイレベルなのだと思います。

・中盤手前ぐらいで、「この物語はどうやって着地していくんだろう」と疑問に思い出したところ、「キノコは生の概念が違う」という話になり、なるほどー、こうやって繋がるのか、と納得感がありました。

・ただその後に、建材適用の話となり、それがなかなか長く続くので、急に物語の中に新しい別の物語が始まったように感じて、テンポが失速したように感じました。

・作品全体で様々な角度から色々な技術の説明がされるのですが、トレビアのつまみ食いみたいに感じて、特に知的好奇心は湧きませんでした(ごめんなさい!)。その技術説明が面白い考察なら、いくら尺があっても良いのですが、自分には、菌煉瓦が建材になり得るかどうかの説明には好奇心は湧かず、苦痛でした。後の展開に必要なのはわかるのですが、、、

・また、菌煉瓦の発想から開発のタイムスパンや、物理特性として耐火部材になれるか、(そしてホール設計までする時間)のリアリティラインが、流石に破綻してるように思えるので、そこで信頼感がなくなってしまいました。個人的には、技術の語りを入れるなら、30年後ぐらいまで時間を飛ばして、より空想科学でよいので、もっと面白いものを聞かせてほしかったです。

・また、「仮に地球温暖化が進んで生き物の活動が止まっても、この煉瓦はかつての活動を始めることになる。そこをユニークな点として強調したら、申請はスムーズに通りました」は、その視点は部材が耐火と認証されるかに関係ないので、厳しいかと思います。またユニークな発想なのですが、それだけを聞いても、(僕は)ワクワクは感じませんでした。これだけでも短編一つぐらいのアイデアだと思うので、そのセリフを言うなら、この作品内で人間が滅びて菌が動き出すまで描かないと、消化不良かもです。

・そしてその後に、何と菌煉瓦が動き出す。そしてピコがしゃべりだす。更にはそれは悪い大人のせいだった、と更に展開が続くのですが、、、筆力が高い方なので、それぞれのシーンが、頭に入ってはくるのですが、、、何だか、ジャンルの違う3本の話を90分映画に詰め込んで、それを早回しでセリフだけ追って見ている感覚になりました。

・シーンをどんどん描いて伝えてしまえる力があるから故なのかもですが、途中から、悪い意味で話がどこに向かうかわからず、後半がだるかったというのが正直な感想です(すみません!)。一本道にするなら、妄想ですが、、、カオルはリコが危険なトライをしたから代わりに死んだ。リコが研究室に入った後は、30年ぐらい時間を飛ばして、中盤に菌煉瓦の世界をより魅力的に描く。リコは自分の力で心の葛藤を乗り越えたけど、まだ乗り越えきれてない精神的ピースがある。そんな中、フィールドワークでリコにチャンス/ピンチが訪れるが、ピコの助けで乗り越える。そこでのピコとの会話を通して、生命の繋がりを感じて終わる、とか?

・なお植物のコミュニケーションの研究には最近ブレークスルーがあったようですね。

植物が”匂い”を感じる瞬間の可視化に成功 -植物間コミュニケーションの解明に向けて大きく前進-(大学院理工学研究科 豊田正嗣教授) (saitama-u.ac.jp)

https://www.saitama-u.ac.jp/topics_archives/2023-1006-1345-16.html

静かの海、かぐやの城で
鹿苑牡丹/ろくおんぼたん

・内容や会話が独特で、何だか不思議な読書体験です。

・おとぎ話風ということで、3人称の神の視点で、主にかぐや1人に焦点をあてる選択なのかな。

・会話や物語の運びのセンスが独特で、狙ってやられているのかわかりませんが、ぷっとわらえて良かったです。「兄弟経営の邪魔をすることに、罪悪感はないのですか?」とか、「今から城に来れませんか?」とか。こういう、すごく変なセリフのやり取りをするには、確かにおとぎ話みたいな文体と視点で話を運ぶ必要があるので、納得感はあります。

・いまいち人物像が伝わってこない感じがあるのですが、、、人物がセリフや行動で自身を表すのでなく、人物の内面を神の視点で説明しているからでしょうか。ただし、これもおとぎ話風だとしたら、それが正しいやり方なので、納得感はあります。

・全体的に、これ必要かな?という情景描写が多く感じました。文字数的には、4000字ぐらいにちょうどよく収まる内容じゃないかな、と感じます。小説というより、1ページ1ページに絵をつけて、童話ぐらいのペースで語られるような形態だと、より面白く読めるんじゃないかな、と思いました。

投げられた先で
池田 隆

・よく作りこまれてると感じます。ただ第一印象は、この作り方は既にどこかで見たことあるな、かも。

・僕の読解力や読み方に起因するところでしょうが、僕はこの作品は全く楽しめませんでした(ごめんなさい!)。理由は二つあります。なお、下記は梗概を読まずに実作を読んだ場合に感じたことです。

・一つには、「生きていない人物や世界の話は、どれだけ作りこんでも、ただの空想」と感じたからです。この作品の世界での出来事が作りこまれていて、整合性も取れているであろうことは伝わります。ただ、その世界が僕の中にrealizeされていないので、結局はただの空想のこねくり回しに感じてしまい、読む意味を見出せませんでした。

読みながら頭の中では「たぶん、小説は、描写や空間や行動やセリフを通して、まずその世界と人物を『実際の人/モノ』と読者に信じ込ませる。そして、それが実際のものと感情移入が実現されているから、その人物や世界の出来事に興味が湧くし、例え空想であっても、その体験や葛藤が読む価値あるもののように感じられるのかも、、、その前工程を省いて、生きていない人物の声をいくら拾い集めても、リアリティは醸成されないし、どんなに内容が鋭くても、ページをめくる興味が湧かないなぁ、、、」などと考えてしまいました。

・二つには、こちらの方が決定的ですが、情報量が多すぎて内容を追いきれませんでした。特定の人物が何回も登場し、何かの物語が進行していることは感じます。ただし、僕の中でその人物像が出来上がっていないのに、様々な場所や立場や切り口で情報が錯綜するので、「えーと、これは、どこでどんなことを言った誰だっけ?」と、いちいち後ろに戻って確認しないと読み進められませんし、特にガイドもないので、誰を覚えてればいいのかもよくわかりません。また、行動や描写が省かれて、ただモノローグが続くので、文字数の全てが平坦な情報と化しています。結果、読み進めるために覚えるべき情報がとんでもない量となり、パンクしました。

読後に梗概を読むと、なるほどそういうものなのかとわかりましたが、いきなり実作だと、全体像がつかめませんでした。

・私ごときが何だか恐縮ですが、率直な感想を求められる方だと感じたので、率直に書かせて頂きました。勉強になりました、ありがとうございます。

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